ここでは、広島TGCの定例会やコンベンションなどで、セッションが終了する時に卓ごとに任意で行っている「役割解除(ディロール)」について説明します。この「役割解除」を実際に行うかどうかは各卓のマスターにお任せしますが、広島TGCではこの作業を長年続けてきた文化がありますので、参加を考えている方は「そういうことをやってるんだ」と思ってご覧下さればと思います。TRPGを趣味としているその他の方にも、もしかしたら役立つかもしれません。

なおこの記事は、一部だけをつまみ読みすると誤解を生じるおそれがあります。引用をする際には適正なルールに基づいて(要はリンクをこのページに貼っていただいて)、くれぐれも慎重にお願いいたします。

では、まいりましょう。

役割解除とはどんなもの?

セッション終了時に、プレイヤー全員が順番に次のように言います。

「〈キャラクター名〉を演じた(やった、プレイした)〈プレイヤー名〉です。」

「戦士のエリックをプレイした松本です。」とか、「ナオユキ・ガードナーをやった光山です。」とか、そのように言って回るわけです。ゲームマスターもついでに、「ゲームマスターをやった(務めた)〈マスター名〉です。」と言っておきましょう。

これが役割解除(ディロール)です。広島TGCでは、これだけ言って終わりにするのが少し気恥ずかしいので、ついでに一言二言その日の感想を言うことにしています。プチ感想戦ですね。

中には嫌だなと思われた方もいらっしゃるかもしれませんね。なんでそんな儀式みたいな事をしないといけないのかと。しかし、これは別に意味もなくやっているのではありません。実際には儀式と言うより、作業のようなものです。

なぜ役割解除をするの?

ちょっと心理学的な話です。これから先に書かれていることは、臨床心理学を多少なりと学んでいない人にとっては寝耳に水かもしれませんが、筆者は心理学研究者のキャリアがあるので、信用していただいてかまわないかと思います。

社員研修や教育場面、あるいは集団精神療法などで用いられる「ロールプレイ」あるいは「サイコドラマ」というものをご存じでしょうか?

一言で言うと、TRPGにそっくりなのです。ホントはロールプレイとサイコドラマは違うモノですし、これらはRPGと違ってダイスをふることはありません。いろいろと違うところは確かにあります。しかし、やっていることはよく似ています。

細かいところでどう違うのかは、ここでは触れません。ただ、目的は違えど、これらはとても形式が似ているのです。

さて。サイコドラマやロールプレイがしばしば精神科の精神療法として用いられるということを先程述べました。それを根拠に、断片的な知識しかない人がよく「TRPGは精神的な健康増進に役に立つ」というような事を主張していたりもします。ですが、実はこの方法、諸刃の剣的な側面があるという指摘をする研究者もいることを知る人はあまりいません。やり方を間違えると、逆効果になることもあるというのです。

たとえば、統合失調症の患者にこれらのテクニックを用いた場合、妄想が悪化することがあると言われています。

そのような逆効果があるような危険な方法は使わない方がいいのではないかと思われるかもしれません。しかし、この逆効果を防ぐ良い方法があるとされています。それが、役割解除です。

広島TGCではこれをTRPGにも応用できるのではないかと考え、長年実行してきました。

本当に必要なの?

さて、ロールプレイやサイコドラマで必要だからといって、TRPGでも役割解除が必要なのでしょうか。

統合失調症は、全人口の100人に1人もいると言われる非常に患者数の多い病気とはいえ、実際にこの病気の方がTRPGをしているということは珍しいケースと考えられます。ですから、そのような策を取る必要性は薄いのではないかと思われる方もいらっしゃるでしょう。

まず、この点においては、広島TGCは念のためというか、安全策のために役割解除をしています。まぁ、やって損はないですし。

私たちが役割解除を行っている理由は、実はもうひとつあります。なんの精神疾患も持たない人に対しても、どうやら役割解除は役に立ちそうなのです。

TRPGは、その性質上、必ずうまくいくとは限りません。そして、精神医学的にはなんの問題もないけれど、激しやすい人や感情が揺さぶられやすい人というのも(わりとたくさん)います。時と場合、そして人によってはTRPGによって、一時的とはいえ良いとは言い難い感情状態(怒り・悲しみ・不満・くやしさなど)に陥ることがありますよね。(繰り返しますが、このことは精神医学的な問題ではありません。たとえば好きな野球チームが負けて不機嫌になるのと同じようなモノです。)

役割解除には、どうやらこれをリセットしてくれる効果があるようなのです。これはなかなか良い効果だと思いませんか?

もちろん、その効果は完全なものではありませんが、その場の雰囲気が悪くなるのを防いでくれたり、さらにうまくいけば、良くなったりするのです。そのような効果が望める(かもしれない)上に、役割解除を行うデメリットは一切思いつかないとなると、これはやってみる価値は十分にあるのではないかと思われます。

……といっても、これは我々の経験則による見解ですので、実際のところは実験研究をしてみないと立証できないのですが。ただ、少なくとも悪いようにはならないと思いますよ。

このようなわけで、広島TGCの定例会やコンベンションでは役割解除を行っています。みなさんも、TRPGをプレイした後に役割解除を行ってみてはどうでしょうか?

UPDATE: 2011-03-29 Tue 08:51 投稿者: 広島TGC